建物内に雨水が侵入するのをブロックするために防水処理が施されている部分を「防水層」といいますが、防水層の施工方法には大きく分けて次の4種類があります。
①シート防水
②ウレタン塗膜防水
③FRP防水
④アスファルト防水
今回はその中の①シート防水についてご紹介したいと思います。
シート防水は、工場生産された防水シートを使うので施工ムラができにくく安定した性能を発揮でき、簡易的な歩行に耐えます。
広い範囲を短時間で施工できることや、耐用年数が比較的長くて経済的であるという理由で、ビルやマンションなどの平坦な屋上によく施工されます。
シート防水には使われる素材によって「塩ビシート防水」と「ゴムシート防水」と呼ばれる2つのタイプがあり、それぞれ施工法に違いがあります。
今回はシート防水の種類や工法についてご説明いたします。

塩ビシート防水
塩ビシート防水とは、塩化ビニル樹脂を原料とした1.5㎜ほどのシートを専用の接着剤や機械などで下地に固定する防水工法です。
塩ビシートは耐候性に優れているため、ゴムシート防水に比べて紫外線や熱に対して優れた耐久性を持ち、長期的に美しい防水層を維持できます。工期が短いのがメリットですが、シートのつなぎ合わせなど工事の難易度が高いため技術を必要とします。
原料 | 特徴 | 主な使用用途 | 耐用年数 |
---|---|---|---|
塩化ビニル樹脂シート | ・通常厚さ約1.5mmのシート状 (2mmの高耐久仕様(遮熱仕様)も有り) ・紫外線や熱に強い ・工期が短い ・工事の難易度が高い |
陸屋根、ベランダ | 約10~20年 |
また、塩ビシート防水には、接着剤で下地に直接塩ビシートを貼り付ける「密着(接着)工法」と、接着剤を使用せずに固定ディスクを使用して防水シートを屋根下地に固定する「機械固定工法」の2種類の施工法があります。
塩ビシートの【密着(接着)工法】
密着工法は、接着剤で下地に直接塩ビシートを貼り付ける工法です。現在の防水層に密着させるので、下地処理を十分に行ってから施工する必要があります。
◆密着工法の特徴
【メリット】
・単層防水のため施工が速く低コスト
・軽量で施工がしやすく、建物への荷重負担が少ない
・耐摩耗性に優れているため、保護層なしで軽歩行が可能
【デメリット】
・可塑剤の揮発により、シートが硬化する
・複雑な箇所の施工が難しい
◆密着工法の工程
1.下地清掃・下地処理(プライマーおよび樹脂モルタルなどの塗布、目地処理など)
2.下地と塩ビシートの裏に接着剤を塗布し、下地と貼り合わせ密着させる
3.ローラーなどで転圧する
4.溶剤溶着または熱溶着で、シート接合部のすべてを接合する
5.立上り部も同様に施工する
塩ビシート防水の【機械固定工法】
接着剤を使用せず、固定ディスク(専用塩ビ鋼板)により防水シートを下地に部分的に固定することで、下地とシートを密着させない工法です。
下地とシートを密着させないため、下地(躯体)の影響を受けにくいので下地処理が最低限ですみますが、新しい防水層に影響を及ぼす可能性がある場合は下地の補修をしてから防水の施工をします。
機械固定工法には、固定ディスクを絶縁シートの上に打って、その上に塩ビシートを重ねる『UD工法(先打ち工法)』と、
絶縁シートと塩ビシートを続けて張った後で固定ディスクを打つ『US工法(後打ち工法)』があります。
①固定ディスクを先打ちする『UD工法』
◆特徴
固定ディスクを先に打ち、その上に塩ビシートを重ねてから熱溶着するため、見た目が美しい仕上がりとなります。
◆工程
1.下地清掃・下地処理をする(補修して平滑にする)
2.絶縁シートを張る(端部は金物で固定する)
3.固定用ディスクをアンカーで固定する
4.上から塩ビシート(防水シート)を張り、シートの繋ぎ目を溶材や熱で溶着する
5.塩ビシートの上からディスクの部分のみを熱で溶着する。ディスク部分以外は下地と密着していない状態
6.絶縁シートからの湿気を逃す脱気筒を設置する
②固定ディスク後打ちする『US工法』
◆特徴
防水シートを上からしっかりと押さえつけるため、耐風圧性能に優れており、高層階や沿岸の建物に対応しています。
◆工程
1.下地清掃・下地処理をする(補修して平滑にする)
2.絶縁シートを張る(端部は金物で固定する)
3.上から塩ビシート(防水シート)を張り、シートの繋ぎ目を溶材や熱で溶着する
4.固定用ディスクをアンカーで固定する
5.水密性を確保するためにディスク部分を補強用シートで覆う
塩ビシート防水の施工事例 UD工法
塩ビシート防水の機械固定工法の施工事例を見てみましょう。UD工法(固定ディスク先打ち工法)の事例です。
①下地調整をする
笠木を取り外したり、下地を平らにするなどの下地調整を行います。
劣化して剥がれたり、デコボコしている部分を綺麗にしていきます。
②絶縁シート(通気緩衝シート)を敷く
絶縁シートを敷きます。
絶縁シートは通気緩衝シートとも言い、建物と防水層を緩衝させる(衝撃を和らげて一定の状態に保つ)効果を得ることが出来るシートで、絶縁シートを敷くことで下地に密着させずに防水層を作ることができます。建物と塩ビシートの間の空気(蒸気)を絶縁シートが逃がすため、膨れを起こす心配がありません。
③固定用ディスク取付

ドリルで下穴を開け、固定用ディスクを置き、アンカーを打ち付けて固定します。一定の間隔で固定用ディスクを全面に取り付けます。
⑤鋼板を取り付ける
絶縁シートの端部や入り隅、立ち上がりなどに鋼板を取り付けていきます。
固定用ディスク同様、土間に穴を開けてアンカーを打ち込んで固定します。
⑥塩ビシートを敷く
絶縁シートの上に塩ビシートを敷きます。(固定用ディスクも塩ビシートで隠れます)
シートとシートの間のジョイント部やコーナー部を、溶着材または熱で溶着します。
⑦ディスク部分を熱溶着する
ヒーターで塩ビシートの上からディスク部分を熱溶着します。ディスクと塩ビシートをしっかりと熱溶着させます。
⑥完成
笠木を復旧し、完成となります。
ゴムシート防水
ゴムシート防水とは、1.0㎜~2.0㎜ほどの合成ゴム系のシートを接着剤で下地に固定する防水工法です。
ゴムシートは伸縮性に優れ温度変化に強いのですが、紫外線には比較的弱く、塩化ビニールシートよりも薄く衝撃に弱いのが特徴です。低コストで工期が短いのがメリットですが、複雑な形状には施工が向きません。
原料 | 特徴 | 主な使用用途 | 耐用年数 |
---|---|---|---|
合成ゴム系シート | ・厚さ約1.0㎜~2.0㎜のシート状 ・伸縮性に優れ温度変化にも強い ・紫外線に弱い ・塩化ビニールシートよりも薄く衝撃に弱い ・低コストで工期が短い ・複雑な形状には向かない |
陸屋根、ベランダ | 約10~15年 |
ゴムシートの【密着(接着)工法】
ゴムシート防水は、下地(躯体)とゴムシートが密着する密着工法のみの施工となります。
◆特徴
・下地処理を十分に行ってから施工する必要がある
・屋上に設置物が無く、形が真四角な屋上に向いている
・建物に負荷がかかりにくい
◆工程
1.下地清掃・下地処理をする(プライマーおよび樹脂モルタルなどの塗布、目地処理など)
2.下地とゴムシートの裏に接着剤を塗布し、下地と貼り合わせて密着させる
3.ローラーなどで転圧する
4.溶剤またはテープなどで、シート接合部のすべてを接合する
5.立上り部も同様に施工する
シート防水に見られる劣化症状
シート防水に見られる劣化症状には次のようものがあります。
最初は小さな穴でも、そこから徐々に水が侵入することで次第に大きな浮きや膨れとなって範囲が拡大していきます。わずかな症状でも早めの点検・メンテナンスを行って雨漏りを防ぎましょう。

シートの破れ、穴開き
重量物を落とすなど外的な衝撃や、鳥害(くちばしで突く)などによって穴が開いたり破れたりします。
シート自体が防水層なので、破れや穴などから水分がシートを通過した時点で防水機能が働いていないことになってしまいます。早急に対処して雨水が内部に侵入するのを防ぐ必要があります。
シートの浮き、膨れ、めくれ
シート下に水分が残っている所に太陽の熱が加わると、水蒸気となって膨れることがあります。
水分がシート下に通っているということは、シートに傷や剥がれが生じていることを指します。いつ雨漏りが発生してもおかしくない状態です。
シートのひび割れ
ゴムや塩ビシートに柔軟性を持たせるために「可塑剤」というものが添加されていますが、時間の経過と共にその可塑剤が溶け出して気化することで素材が柔軟性を失って固くなり、ひび割れを起こします。破れや穴と同じくひび割れからも雨水は侵入しますので、早急な対応が必要です。
シート接合部分の破断や剥がれ
経年とともに接合部分の接着力が低下したり、太陽の熱によって収縮を繰り返すことでシート接合部分や端部分が剥がれてしまう場合があります。最初はわずかな剥がれであっても最初の剥がれをきっかけに次第に範囲を広げていきます。
また、シートの下に水分が入り込むことによって下地と接着面の劣化が進行してシートが剥がれることがありますが、めくれ部分が大きいと台風などの強風によりシートが飛ばされる可能性があり危険です。
水が溜まる
シートの浮きや膨れなどによって勾配が変わり、水たまりができます。また、ドレン(排水溝・排水口)にゴミや土がたまって排水がスムーズにいかず水溜まりができます。
排水口からスムーズに排水できない状態は屋上に水を溜めこんでいるのと同じです。排水口周りは普段から特に注意してチェックする必要があります。
草が生える
水が溜まりやすい場所であるか、シートの下に水が入り込んでいる可能性が高い状態です。草のまわりに常に水分があることを表しています。
シートの上に土がたまってその上に草が生えたとしても根がシートの下側まで回り込んでいる可能性がありますので、状態をよく見てみましょう。無理に引っ張るとシートごと引っ張ってしまい、防水層の傷をさらに広げてしまう可能性があります。
まとめ
シート防水にはゴムシート防水と塩ビシート防水の2種類があり、それぞれに工法の違いがあることをお伝えしました。

塩ビシート防水には下地と防水シートを密着させる密着工法と、固定ディスクを使用して下地と防水シートを密着させない機械固定工法があります。下地と密着させない場合は脱気筒を設置することがあり、絶縁シートと下地の間の湿気は脱気筒を通じて外に排出される仕組みとなっていますが、脱気筒を付けるか付けないかは場合に応じて判断します。
また、ゴムシート防水には下地と防水シートを密着させる密着工法があります。。
屋上の形や下地の状態、工期の長短や耐久性、コストなどの面から、状況に適した防水工事を行うことをお勧めいたします。

建物の防水機能を維持することは、建物の強度を維持することに直結しています。
水分が建物内部へ侵入すると建物自体の強度を弱めることを意味することに加え、カビや悪臭の原因を作って住む人の健康に被害を及ぼします。
建物の寿命とご家族の健康を守るために防水層の定期的な検診とメンテナンスを行い、防水層に不具合を見つけた時は早急に処置を行うようにしましょう。
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